羊羹の歴史を調べてみた
羊羹(ようかん)の歴史は、中国の点心(蒸し料理)に起源を持ち、日本に伝来した後に禅僧の精進料理として独自の進化を遂げ、最終的に寒天を用いた和菓子として完成した変遷を辿っています。
1. 中国での起源:羊の羹(あつもの)
羊羹の起源は、日本の和菓子とは全く異なる、中国の肉料理にあります。
「羹(あつもの)」の時代: 羊羹という名前は、元々**「羊の羹(ひつじのあつもの)」、すなわち羊の肉を使ったスープや煮込み料理**を意味していました。
肉を使った点心: 中国では、この羊の羹を冷やし固めて煮こごりのようにしたものが、**点心(軽食)**として食べられていました。これが羊羹の原型です。
2. 日本への伝来と精進料理への変化(鎌倉時代〜室町時代)
仏教、特に禅宗と共に中国から日本へ伝わりましたが、肉食が禁じられていたため、材料が変更されました。
伝来: 鎌倉時代から室町時代にかけて、禅僧が中国(宋や元)へ渡り、その文化と共に羊羹の製法も日本へ持ち帰りました。
精進料理化: 日本の仏教では肉食が禁じられていたため、羊の肉の代わりに**小豆や小麦粉、葛(くず)**などの植物性の材料を使って作られるようになりました。
この時期の羊羹は、蒸して作られることが主で、蒸し羊羹の原型にあたります。
3. 寒天の発見と煉り羊羹の完成(江戸時代)
羊羹の歴史における最大の転機は、寒天の発見と、それによる「煉り羊羹」の誕生です。
A. 寒天の発見
17世紀中頃(江戸時代初期): 京都で旅館を営んでいた人物が、ところてんを屋外に放置したところ、凍結と乾燥を経て、透明で純粋な寒天になることを発見しました。
寒天の利用: 寒天は、それまでの葛や小麦粉よりも透明度が高く、常温で固まるという優れた性質を持っていたため、羊羹の材料として採用されました。
B. 煉り羊羹(ねりようかん)の誕生
煉り羊羹: 寒天を溶かし、多量の餡(あん)と砂糖を加えて煮詰め、型に流し込んで固める製法が確立しました。これが、現代の羊羹の主流である煉り羊羹です。
砂糖が大量に使われるようになったのは、江戸時代中期以降、砂糖の流通量が増加し、庶民にも手が届くようになったためです。砂糖は保存性を高める役割も果たしました。
長期保存が可能に: 寒天と多量の砂糖によって日持ちが良くなったため、羊羹は茶請けとしてだけでなく、贈答品としても人気を博しました。
C. 蒸し羊羹・水羊羹
この時代、寒天の使用量が少なく、小麦粉や葛を多く使って蒸して作る**「蒸し羊羹」や、夏の冷菓として寒天と水分を増やして作る「水羊羹」**といったバリエーションも定着しました。
4. 現代:工業化と多様化
羊羹が全国的な銘菓となり、製法や材料が多様化した時期です。
全国的な名産化: 明治時代以降、交通網の発達と共に、羊羹は各地方の銘菓として発展しました。特に、和菓子の中心地である京都や、小豆の産地などで名店が生まれました。
近代的な製造: 製造技術の向上により、羊羹の品質は安定し、真空パックなどの包装技術も導入され、さらに長期保存が可能になりました。
多様な材料: 伝統的な小豆餡のほかに、栗、芋、抹茶、塩など、様々な材料を加えた羊羹が開発され、贈答品や手土産として現代に至るまで愛され続けています。